なかなかの量を被っていたらしく、結局ハンカチだけでは足りずお店からタオルを借りた。

「はぁ、冷たい……。髪ベタベタ」

お手洗いの水道でタオルを濡らしながら一生懸命拭き取る。
おかげで酔いも覚めたかも。

髪も服もすぐには乾くはずもなく、濡れたまま戻る途中、ソファーが置かれた喫煙スペースで部長が休んでいた。
さっきのお礼を言わなきゃと思い近づくと、私に気づいた部長に手招きされる。

「美琴」

「…………私ですか?」
「お前以外に誰がいる」
「……ですよね」


…………美琴?お前?


「これ着てろ」

差し出されたグレーのカーディガンは、さっきまで部長が着ていたもの。

「えっ、でも……」
「……俺のは嫌なの?」
「いえっ!そうじゃなくて、汚れちゃいます」
「あー、いいから」
「……すみません。お借りします」

ブラウスが少し透けていたから良かった、けれど。
羽織ると宮内部長の香りがふわりとして、ドキドキと胸が高鳴った。
カーディガンの長い袖がすっぽりと指先を隠して、なんだか恥ずかしくなる。

「なんで怒んねーの?」
「え?」
「白坂に」
「でも手が滑ったって……」
「お前はバカか?」

部長の話し方が違う?お酒飲んだから?
なんか怖い……。

「嘘かどうかくらいわかるだろ」
「でっ、でも私……」
「悔しいだろ?あーゆーのはハッキリ怒っていいんじゃない?」

そうできればいいって、そんなふうになりたいって思うけれど。
さっきは、また言い負かされている自分が情けないなって思ったけれど。

「でも、平気です」

よく考えたら、私。

「はぁ?なんで……」
「宮内部長が怒ってくれたから」
「え」
「だから、得した気分です」

ちょっとだけ嬉しい。

「…………お前、可愛いな」

……っ!?

宮内部長、相当酔っ払ってるんだ。

「だけど少しは言い返せるようになれ」
「はっ、はい」
「どうにもできないくらい困ったら、ちゃんと言えよ」
「ありがとうございます。部長は本当に良い人ですね」

「……そう思う?」

見つめられた目つきが鋭くてドキッとする。
でも皆が笑うのに、私のために怒ってくれたもの。

「はい!」

私は満面の笑みで答えた。

「じゃそうしとく」
「?」

部長は髪を掻き上げて、何か考え込むように視線を左下に落とし溜め息を吐いた。