溜め息を吐きふと顔を上げ、息を呑む。
宮内部長にベッタリの白坂先輩が、どうしても私の座る場所から目に入ってしまうのだ。

隣で話し出す根岸部長の声なんて耳に入らず、見たくもないのに二人から目を離せずにいた。

「宮内部長と理子、いい雰囲気ー!」
「二人こそ付き合ってるんじゃないのぉ?」

盛り立てる総務部の先輩に私は眉を寄せる。
ムカムカしてきて、満杯だったコップをたちまち空にした。

「田代ちゃん飲みっぷり良いね!」
「……あ、いえ」

やがて佐々木先輩に声をかけられ、白坂先輩を振り払うように部長が席を立ち上がると、やっと私は胸を撫で下ろした。
同時に喉から頬がポカポカしてくる。

「いやぁ、田代ちゃん無事に来れて良かったよ!宮内くんの車に乗ってきたんだろ?」
「えっ……?はい、お気遣いありがとうございました」
「うちの娘が二十歳でね。田代ちゃんくらいだから放っておけなくて」
「そうなんですか」
「もう家では喋ってくれないんだけどさぁ」
「あはは……」

長く、なりそう……。

「社長の話じゃないんだけど。実は宮内くんと田代ちゃん、お似合いだと思ってたんだよね」
「げほっ!」
「根岸部長、なにを……」
「ハハハッ!本当だよ~」

社長も根岸部長もなんてことを……!
驚きと混乱で口をぱくぱくさせていると、頭上からドボドボと冷たい何かが降ってきた。
なんだ……?

「うわー!田代ちゃん大丈夫?」

水?じゃない。
……お酒くさい。

見上げると、白坂先輩がビール瓶を手に私を睨みつけていた。

「やだ理子、なにしてんの」
「手が滑っちゃった。ごめんね田代さん」
「……いえ、大丈夫です」
「田代さんにもお酌しようと思って……。私ったら、もう酔っちゃったのかな」
「……っ」
「ごめんね?」

先輩達にクスクスと笑われ顔が熱くなる。
でも、多分見ていた人もいないだろうし。
幸い皆それぞれで盛り上がっているから、まだマシかも。

心配する根岸部長にペコリと頭を下げて、ハンカチを持ち立ち上がった。


「わざとだろ」


店内に低い声が響き、しん、と静まり返る。

その声の主は、宮内部長で。
会社で見る優しい笑顔の部長からは、想像できないほどで。

「ほっ、本当に、手が滑っただけ……!」

白坂先輩もビクリと肩を震わせる。
何が起きたのかと見にくる人も増えて、私はいたたまれなくなり咄嗟に笑顔を作った。

「あのっ、あはは。大丈夫です!拭いてきますっ」