特別忙しくもなく一日が終わり、定時で早々と上がる白坂先輩達。
なんでも総務部の先輩の彼氏さんが送迎してくれるそうで、揃って帰っていった。

迷子を考慮して私も急がなきゃ。
オフィスのカップを回収しカチャカチャと洗っていると、給湯室に宮内部長が飛び込んできた。

「良かった!もう帰ったかと思って焦ったよ」
「……?」
「田代が場所よくわかってないみたいだって、根岸部長に聞いたんだ。一緒に乗ってけ」
「えっ、でも……」
「遠慮するな。どうせもう一人乗せてくから」
「え?」
「片付けたら行くから、車の所で待っててくれ」
「あっ、ぶちょ!……行っちゃった」

もしかして、私のために走ってきてくれた?

「まさか、ね……」

自惚れだよね。
給湯室の壁に下げられた鏡に、ボヤけてぱっとしない自分を写す。
先輩達は皆いつもよりお洒落だった。
私も白坂先輩みたいに美人だったら良かったな。

はぁっと深い溜め息を吐いて、ずれていた眼鏡を直した。



もう一人って誰だろう?

駐車場に出ると数台しかなくて、部長の車はすぐに見つかった。
横にしゃがみ込み、夕陽を眺める。
ただでさえ慣れない都会で道もわからず、本当は一人で行くのが不安だった。
宮内部長は面倒見が良い人だから、放っておけなかったんだろうな。

今度好きなパンを聞いて、お礼しよう。
私にはそれくらいしかできないし……。