あれから数日。
宮内部長のおかげで立ち直った私は、真摯に仕事へ取り組み、一人でできることも多くなってきた。

そして、部長へパンの差し入れをするのが日課に……。

部長もたまにコンビニで、私にお菓子やジュースを買ってきてくれる。
最初は申し訳なくて遠慮していたのだけれど、フェアじゃないと言い張るのでありがたくいただくことにした。

でも、それだけじゃなくて。
ほんの少し、距離が近づいた気がする。


「おはよー!」

朝の掃除に夢中になっていると部長の声とともに、つむじにヒンヤリとした衝撃が走る。

「冷たっ!?おっ、おはようございます」
「キャラメルラテ」
「わぁ!ありがとうございま……」

カップを見せ微笑む宮内部長から受け取ろうとするのだが、私の手はヒョイと空を切った。

「っ!?」
「どうぞ」
「……ありが、あっ!?」
「ほら。どうぞ?」
「……」
「ハハッ、田代。パンみたいだぞー」

何度も差し出されては空を掠め、いい加減むっと膨らませた頬を部長は指差す。

「ひっ、ひどいです……」
「ごめん……。ククッ、許して」
「まだ笑ってるじゃないですか!」
「あんまり膨れるから」
「もうっ」
「アハハッ」

私の頬は再び膨張して、二次発酵。
宮内部長の本当は、意外と悪戯好きでした。


「早いなぁ、もう来ているのか」


「社長っ!おはようございます」
「おっ、おはようございます」

今度こそ部長からキャラメルラテを受け取ろうとした時、突然開いたオフィスのドア。

「楽しそうに笑っていたのは、宮内くんだったのか」
「え?」
「独り身で心配だったんだが。良かった良かった」
「なにがです?」
「ははは、仕事はしっかりしてくれよ」

社長は笑いながらアッサリと出ていく。
私達は顔を見合わせて首を傾げた。

「……仕事するか」
「はい」


恥ずかしさとぎこちなさが入り交じった、そんな秘密の朝の時間が心地好い。