「た、田代……。なんだこれ」

怒ってるー!?

宮内部長が出勤してすぐ、椅子に座ったところに潔く、ごめんなさい!と見せたクマのパン。
部長は受け取ろうとして出した手を止めたまま、目を丸くしていた。

「なんなんだこの可愛いのはっ!?」
「すみませんっ、すみませんっ!つい夢中になって」
「この顔を食いちぎるなんて残酷なこと、……俺はできるのか!?」
「すみませんっ……」

ん?

「可愛いすぎだろこれ!」

ようやく私の手から離れたクマを、部長は頬を染めて睨む。
気になって顔を覗き込んでみると、微妙に口角が上がっていた。

宮内部長、もしかして意外と可愛いものがお好きみたい?

「あの、でもやっぱり嫌、ですよね……?」
「え?嫌じゃないけど」
「だってそんなの、恥ずかしいんじゃ……」
「そんなのって!こんな可愛いクマに罪はないだろ!」
「……は、はぁ」
「田代は器用だなぁ」
「そんなっ」

良かった、気に入ってもらえたみたい。
デスクに肘をついて嬉しそうにパンを見つめる部長が、オフィスの窓から差し込んだ朝陽に照らされて凄く綺麗。
胸の奥がキュンとして、吸い込まれるように見とれてしまう。
キラキラした一日になりそうな予感を静かに抱いた。


不意に「あ」と何かに気づいて、部長は私にパンをかざす。

「なんか似てる」

そう言って私の顔の隣に、クマをくっつけては笑いクマを見ては笑い「可愛い」を連呼した。


「そ、掃除……、してきます…………」

染まった頬を隠すのも忘れて何も言えずにフラフラと歩く私を、柔らかい声で呼び止める。

「田代!この間みたいなことがあったら、ちゃんと言えよ」
「え……?」
「先輩だろうがなんだろうが、無実の罪をかぶる必要なんてないんだからな」
「あ……」
「俺まで誤解してたら嫌だろ」
「……はい」


上司として、だよね……。
宮内部長は、誰にでも、優しいもん。