今日は難なく定時で帰宅。

満員電車に揺られた後は、夕焼けに照らされながら一人歩道を歩く。
アパートに帰る前にちょっと寄り道。
パンの材料の買い足しへ……。


実は私が退勤前、カップを洗っている時にコーヒーを作りにきた部長。

「あ、田代。パンありがとなー!どっちも美味かった」
「いっ、いえ!ココアのほう、甘めだったけど大丈夫でしたか?」
「ん、俺甘いの好きだから。ただ、胡桃とか入ってたろ?パン生地がもう少し硬いと最高のバランスだな」
「なるほど。ありがとうございます!良ければまたもらってください」
「……本当に迷惑じゃないのか?」
「もちろんですよ。毎日作ってるので、実は食べきれなかったんです」
「だったら明日はあんぱんが食いたい!」
「あはは。了解です!」

ということで。

どうせなら好みも詳しく聞いておけば良かったな。
つぶ餡、こし餡、どちらにすべきか。
お店で三十分悩んだ。



「さてと!」

お風呂から上がり乾かした髪を束ねる。
一次発酵からベンチタイムまでで肌艶良く膨らんだ生地に、にんまり。
なんというか、我が子のような可愛いさがあるのだ。

鼻歌を歌いながら、包丁で丁寧に切り分けた。
ここからの生地はなるべく、無駄に捏ねたり千切ったりしないほうがいい。
丸く形作り麺棒で伸ばし餡を詰める。

そうだ、何個かクマの形にしようかな。
部長に渡す分だけ丸くしよ。
なんだか気分の良い私は、ルンルンしながら夢中になって耳を付けたり顔を付けたり。
へへ、可愛い。
できあがっていつも通り、冷蔵庫で二次発酵。

一息吐いて辺りを見回した。
キッチン、もう少し広いといいんだけどなぁ。

4.5帖のキッチンに6帖の寝室。
アパート初契約で、しどろもどろのうちに決めてしまって後悔。
パンを焼くために奮発したオーブンレンジが大きくて場所を取っていた。
対照的にレンジ台の隣にある一人暮らし用の小さな冷蔵庫。

その中には部長リクエストのあんぱんが眠っている。

きっと明日も、笑顔で喜んでくれる気がして私は幸せな気持ちになった。