「ふぅ。今日も疲れたな」


ちゃぽんと、浴槽に浸かり溜め息を吐く。

四月に大学を卒業して上京、小さな会社の事務として入社したばかり。
まだ都会にも会社にも馴染めず。
体は慌ただしくも、心は悶々とした日々を送っている私、田代美琴。

初めての一人暮らしだし、就職のお祝いにと、アルバイトして貯めたお金で憧れのホームベーカリーを買った。
昔からお菓子やパンを黙々と作るのが好きなのだ。
それが私のストレス発散方法。

しかし不幸にも、私の産物を喜んで食べてくれる家族は遠い田舎。
毎日のランチにお弁当代わりに持っていって、自分で食べている寂しい女です。

「はぁぁ。明日も怒られるのかなぁ」

実は私の指導係の先輩が苦手で悩みの種。

「自分が嫌になる……」

お湯に沈みぶくぶくと泡を吹いた。
あがり症で口下手、プレッシャーに弱くて睨まれると余計ミスをしてしまって、負の連鎖。
そんな私だからだろうな、毛嫌いされている気がするんだ。
先輩は美人だしお洒落だし、地味眼鏡でダサダサの私とは話したくないのかも。


「あっ、パン!」

いけないっ、そろそろ一次発酵まで終わる頃!

私は慌ててお湯を掻き上げた。