「良ければ俺のと交換してくれないか?」


キラリと光った部長の瞳が私の頭を真っ白にする。

「……へ?」
「いつも田代が持ってきてるパン、実は食べてみたかったんだよ」
「え、えっ!?」
「手作りって、コンビニにはないふわふわ感があるだろ!」
「でも、お口に合うか……」
「頼む!」
「……っ」

そんなにお願いされたら……、さすがに断れない。
私は言葉につまったまま首だけを縦に振り、ロッカーから取り出したパンを差し出した。

「今朝焼いたものなので、夜までおいても大丈夫だと思いますが……。あのっ、不味いときはムリして食べないでくださいね?」
「おぉっ、焼き立てかぁ!ありがとう!」

こんなパンで、めいっぱい微笑む宮内部長。
本当に好きなんだなぁ。
私のどんよりした地味オーラが、爽やかな笑顔の竜巻に吹き飛ばされたかのように心がスッとした。

男の人とこんなに話したことないからかな、……頬が異様に熱くなってきた。
ペコリと頭を下げて自分のデスクへ逃げ、両手で頬を覆う。

総務部と設計部の間に、営業部のデスクが隔ててあって良かった。
バクバクと高鳴る心臓を握り締めてひとまず深呼吸。
手元には部長が買ってきたパンがあって、対角線の先には私が作ったパンがあって。


二人だけの朝のオフィスで、素敵な部長とまさかのやり取り。

でも私的にはそんなことより、パンを食べた時の反応のほうが恐怖。
とにかく胃が痛むのだった。