〜宮内部長の受難〜



「本当、宮内は抜け目ないっていうか。完璧に仕上げてくるよねー!」
「仕事なんだから当たり前じゃないですか」
「僕はそれが気に入らないんだよ!」
「俺だって佐川部長のアバウトさにはウンザリなんですが」
「その口、冷たい態度!僕は上司なんだよ。次期社長だよ?」
「だったらシッカリ仕事してくださいよ」
「うーわ!宮内ムカつく!」


営業部の佐川部長と組んだのは、入社二年目の春。

その頃から、横暴だし女好きだし。
あいかわらずな人だった。
でも顔が広くて話も上手いから仕事も取れるということで、誰も文句を言わない。
何より次期社長を盾にする。
俺はそれが正直キライで、若さゆえに歯向かったりもした。

お互いに不満はあるし憎まれ口を叩いてはいたが、能力は認め合っていたんだと思う。
だからこそ成り立っていたのだろうし。

「佐川部長。この注文、ちゃんと打ち合わせしました?」
「わからないならクライアントに電話して聞きたまえ」
「……アナタは契約しかできないんですか?」
「それが営業だろう?打ち合わせに手間を取るなら僕は契約を取る」
「打ち合わせまでが営業の仕事でしたよね」
「描くのは君なんだから、君が打ち合わせすれば早いと思わない?宮内は細かしくて肩凝るんだよね」
「……それが設計ですから」
「そう!残念ながら君の図面は好評だよ」
「良いことじゃないですか」
「僕が素晴らしい仕事を取ってきたからだよね?」
「そして俺が描き上げたからですね」
「……強気だな、宮内。君が女の子だったら口説いていたよ」
「マジで気持ち悪いんですけど」

俺もムカついてはいたけど、楽しかったのかもしれない。
佐川部長が取る仕事は確かに面白い図面で、設計技術を勉強しながら新しい視点を探すことに夢中だった。


だけど、半年もしないうちに佐川部長の理不尽が目立つようになってくる。
人が変わったみたいに数字ばかりを気にしていて、業績を伸ばすことしか考えていないようだった。
噂では社長から圧力をかけられたんだそう。

「仕事取りすぎです。納期に間に合いませんよ」
「……君ならできるでしょ」
「限度があります。毎日何時まで残業してると思って……」
「無駄を削ればもっと早く仕上がるはずだよ。今月の業績を見たら社長も驚くだろうね」
「業績も大事でしょうけど、設計部のことも考えてほしいです。佐川部長が取りまくった仕事、現状では皆で手分けしても追いついてないんですよ」
「それは君の実力不足なんじゃないの?」
「……はい?」
「あぁ、だから社長は認めてくれないのかな?今の僕では会社を任せられないって言うんだ」
「テキトーだからじゃないですか?」
「きっと僕が課したノルマを宮内がこなせないからだね」
「……」

不愉快だな、八つ当たりかよ。
社長に何て言われているのかは知らないが、俺を巻き込まないでほしい。

今思えば佐川部長も焦って必死だったんだろうけど。
俺も連日の睡眠不足が結構キツくて、そこまで考える余裕なんてなかった。