「なるほどね。それで死んだ魚の目してたわけか」
……そんな酷い顔だったのかな。
午前中は何をしたかも覚えていないけれど、平常心を装って最低限こなしたはずのルーティンワーク。
涙で蒸気した頬にボーッとしたまま首を傾げると「まず言っとくけど」と、俯く私を覗き込んだ。
「あのねぇ、美琴。私だって心配くらいしてるんだからね?」
「……?」
「様子がおかしいの、バレてないとでも思った?」
「えっ、……はい」
大きく頷くと、理子先輩は眉を上げて脚を組み直す。
「宮内部長に頼まれたからじゃなくて、私だってあんたのこと可愛がってんだからさ。そりゃ前はイジメてたけど……、一人で悩んでないで相談しなさいよ」
「……理子先輩」
ちょっとだけキツイ目つきに、長くて綺麗なマツゲが揺れる。
フンッと髪を耳にかける仕草が気恥ずかしそうで、胸の奥がじわじわと温かくなった。
私が打ち明けるのを、待っていてくれたんだ。
「理子先輩。私、司さんに嫌われたらどうしよう……」
「大げさ。あんたに落ち度はないわよ」
「でも、もっとしっかりしていれば……」
「バカね。宮内部長がそのくらいで嫌うわけないじゃない」
「……」
「蚊に刺されたのよ!それかササクレ!」
「蚊……、ササクレ……」
「ちっとカスッたくらいのキスなんか忘れなさいっ!」
…………キス。
キスしたことには、変わりない。
取り憑かれたみたいにズンと重くなる私の空気。
それを祓うように、大きな掌がポンと肩にのった。
「俺、投げ飛ばしたいけど、司に譲るわ」
「えっ!?」
背後から降ってきた低い声にビクリとして振り向くと、佐々木先輩がコンビニの袋を握り締めて仁王立ちしている。
「あたりまえでしょ!てか、立ち聞きしないでよ」
「司は心のキャパは大きいからさ。少なくとも田代さんを責めたりはしないよ」
「そうよ!宮内部長は冷静だし、帰ってきたら甘えなさいよ。ほら美琴、元気出して」
「とりあえず昼飯おたべ。田代さんプリン好き?」
「あっ、はい」
口調とは裏腹に暗い形相のまま差し出され、有無なく受け取るホイップたっぷりのプリン。
二人には心配をかけてしまってばかりだ。
苦笑いしながら目の中でゴロゴロと痛みの走るコンタクトを外し、赤くなった目元をハンカチで拭う。
それからデスクの引き出しに入れておいた真新しい眼鏡をかけた。
久々にレンズ越しのオフィスを見ると、窓から四方に飛び散った光で目眩を起こす。
地味な眼鏡で俯いていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。
握り締めたプリンのカップから層を覗くと、カラメルソースだけが物凄く苦そうで。
罪悪感に染まる私みたいだった。
……そんな酷い顔だったのかな。
午前中は何をしたかも覚えていないけれど、平常心を装って最低限こなしたはずのルーティンワーク。
涙で蒸気した頬にボーッとしたまま首を傾げると「まず言っとくけど」と、俯く私を覗き込んだ。
「あのねぇ、美琴。私だって心配くらいしてるんだからね?」
「……?」
「様子がおかしいの、バレてないとでも思った?」
「えっ、……はい」
大きく頷くと、理子先輩は眉を上げて脚を組み直す。
「宮内部長に頼まれたからじゃなくて、私だってあんたのこと可愛がってんだからさ。そりゃ前はイジメてたけど……、一人で悩んでないで相談しなさいよ」
「……理子先輩」
ちょっとだけキツイ目つきに、長くて綺麗なマツゲが揺れる。
フンッと髪を耳にかける仕草が気恥ずかしそうで、胸の奥がじわじわと温かくなった。
私が打ち明けるのを、待っていてくれたんだ。
「理子先輩。私、司さんに嫌われたらどうしよう……」
「大げさ。あんたに落ち度はないわよ」
「でも、もっとしっかりしていれば……」
「バカね。宮内部長がそのくらいで嫌うわけないじゃない」
「……」
「蚊に刺されたのよ!それかササクレ!」
「蚊……、ササクレ……」
「ちっとカスッたくらいのキスなんか忘れなさいっ!」
…………キス。
キスしたことには、変わりない。
取り憑かれたみたいにズンと重くなる私の空気。
それを祓うように、大きな掌がポンと肩にのった。
「俺、投げ飛ばしたいけど、司に譲るわ」
「えっ!?」
背後から降ってきた低い声にビクリとして振り向くと、佐々木先輩がコンビニの袋を握り締めて仁王立ちしている。
「あたりまえでしょ!てか、立ち聞きしないでよ」
「司は心のキャパは大きいからさ。少なくとも田代さんを責めたりはしないよ」
「そうよ!宮内部長は冷静だし、帰ってきたら甘えなさいよ。ほら美琴、元気出して」
「とりあえず昼飯おたべ。田代さんプリン好き?」
「あっ、はい」
口調とは裏腹に暗い形相のまま差し出され、有無なく受け取るホイップたっぷりのプリン。
二人には心配をかけてしまってばかりだ。
苦笑いしながら目の中でゴロゴロと痛みの走るコンタクトを外し、赤くなった目元をハンカチで拭う。
それからデスクの引き出しに入れておいた真新しい眼鏡をかけた。
久々にレンズ越しのオフィスを見ると、窓から四方に飛び散った光で目眩を起こす。
地味な眼鏡で俯いていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。
握り締めたプリンのカップから層を覗くと、カラメルソースだけが物凄く苦そうで。
罪悪感に染まる私みたいだった。