「謝りに行ったほうが良いだろう!そうだ、宮内なら向こうで直せるし出張しなさい!」
「……は?」
俺のミスを聞きつけた佐川専務。
わざわざオフィスまでいらして揚々とデカイ声で叫んだ。
ミスに大きいも小さいもない。
ミスはミスだ。
が。
しかしそんな簡単に、他の仕事があるのに、なんでもかんでも出張するわけにはいかない。
今まで築いてきた取引先との信頼関係は良好で、それ相応の対応で良しとしてくれたわけで。
「ミスした一部のパーツを送り返してもらって、うちで修正して送れば問題なく使用できますし、先方もそれで良いと……」
「却下」
「……はぁ」
溜め息しか出ないでいると、大介も擁護してくれたのだが。
「あのー、佐川専務?」
「なにかな?佐々木」
「自分を棚に上げるわけじゃないですけど。俺この間、宮内部長より酷いミスしても出張なんてしませんでしたよ」
「うーん」
「先方も良いって言ってるんだから……」
「却下」
「……へぃ」
専務様が何を考えているんだか理解する気にもなれず、取引先へ明日伺いますと電話を入れた。
五時半を過ぎた頃、残業決定のためコーヒーを作りに向かう。
さっき美琴がマグカップを洗いに行ったはずだ。
気分転換に少し話せるかなーなんて期待する俺は、思いのほか落ち込んでいるらしい。
給湯室の近くまでくると、半開きのドアから専務の声が聞こえた。
「ねぇ、美琴ちゃんの彼氏って宮内?」
「…………え」
「図星?そっか、やっぱりそうか。邪魔されるわけだ」
「あ、あの……」
「宮内、仕事ばっかりで寂しくない?」
「それは……」
「僕ならそんな思いさせないよ?」
……寂しいのか。
割り込んでやろうと思ったが、思わず立ち聞きしてしまう。
「それなのにミスして出張してたら、さすがに冷めるでしょう?」
「え?」
「ハハッ、偉そうなこと言うわりには宮内も抜けてるよねー」
……確かに俺、カッコ悪いよなぁと落胆。
肩を落としていると、触らないでくださいという美琴の低い声がハッキリと聞こえて、パンッと威勢の良い破裂音が響いた。
「人のミスを笑うなんて最低です!そんな人が次期社長だなんて信じられません!」
「……え」
「司さんをバカにしないでください!あなたみたいな人、大っ嫌いです!」
パタパタと足音が近づいてきて、乱暴に開くドア。
目を丸くする俺と片頬を赤くする専務の視線が重なり、とても長い一瞬を対峙した。
「……っ司さん!?」
俺を見て驚く美琴の声に我に返る。
戸惑う彼女の手を引き、食堂を抜けて誰もいないであろう喫煙所まで連れてきた。
ここにくると無意識にポケットから煙草を出す習慣があるのだが、今はそれどころじゃない。
「笑い事じゃないですよっ!」
「アハハッ、お前最高だな」
頭にきたんです、と。
しょんぼりする美琴に、道中もう笑いが堪えきれなくて。
ノックアウトです。
「私、クビになるかもしれません」
「そしたら俺が一生面倒みるから」
「助かりま……、えっ!?」
「ククッ」
「からかわないでくださいよ!もうっ」
別にからかってないし。
大笑いする俺にしばらく頬を膨らませていたが、不意に真顔になって覗き込まれドキリとする。
「私、仕事を一番に頑張ってる司さんが大好きですよ」
……反則技ばっか使いやがって。
年下のくせに、いきなり大人びる彼女に心拍数は上昇。
無性に愛しくて柔らかな髪をくしゃりと撫でると、気持ち良さそうに目を細めるもんだから。
溜まらず肩を抱き寄せそっとキスをした。
「二つ、約束して」
「……約束?」
頬を染めた美琴にコツンと額をくっつける。
「専務となるべく二人きりにならないこと。ヤバイと思ったらすぐ逃げること」
「……え?」
「本当に、お願い」
「……はい」
その顔では、よくわかってないな。
一日でも側にいれないって、こんなに辛いもんなのか。
大切にしたいと思う気持ちを、痛いほど感じた。
「……は?」
俺のミスを聞きつけた佐川専務。
わざわざオフィスまでいらして揚々とデカイ声で叫んだ。
ミスに大きいも小さいもない。
ミスはミスだ。
が。
しかしそんな簡単に、他の仕事があるのに、なんでもかんでも出張するわけにはいかない。
今まで築いてきた取引先との信頼関係は良好で、それ相応の対応で良しとしてくれたわけで。
「ミスした一部のパーツを送り返してもらって、うちで修正して送れば問題なく使用できますし、先方もそれで良いと……」
「却下」
「……はぁ」
溜め息しか出ないでいると、大介も擁護してくれたのだが。
「あのー、佐川専務?」
「なにかな?佐々木」
「自分を棚に上げるわけじゃないですけど。俺この間、宮内部長より酷いミスしても出張なんてしませんでしたよ」
「うーん」
「先方も良いって言ってるんだから……」
「却下」
「……へぃ」
専務様が何を考えているんだか理解する気にもなれず、取引先へ明日伺いますと電話を入れた。
五時半を過ぎた頃、残業決定のためコーヒーを作りに向かう。
さっき美琴がマグカップを洗いに行ったはずだ。
気分転換に少し話せるかなーなんて期待する俺は、思いのほか落ち込んでいるらしい。
給湯室の近くまでくると、半開きのドアから専務の声が聞こえた。
「ねぇ、美琴ちゃんの彼氏って宮内?」
「…………え」
「図星?そっか、やっぱりそうか。邪魔されるわけだ」
「あ、あの……」
「宮内、仕事ばっかりで寂しくない?」
「それは……」
「僕ならそんな思いさせないよ?」
……寂しいのか。
割り込んでやろうと思ったが、思わず立ち聞きしてしまう。
「それなのにミスして出張してたら、さすがに冷めるでしょう?」
「え?」
「ハハッ、偉そうなこと言うわりには宮内も抜けてるよねー」
……確かに俺、カッコ悪いよなぁと落胆。
肩を落としていると、触らないでくださいという美琴の低い声がハッキリと聞こえて、パンッと威勢の良い破裂音が響いた。
「人のミスを笑うなんて最低です!そんな人が次期社長だなんて信じられません!」
「……え」
「司さんをバカにしないでください!あなたみたいな人、大っ嫌いです!」
パタパタと足音が近づいてきて、乱暴に開くドア。
目を丸くする俺と片頬を赤くする専務の視線が重なり、とても長い一瞬を対峙した。
「……っ司さん!?」
俺を見て驚く美琴の声に我に返る。
戸惑う彼女の手を引き、食堂を抜けて誰もいないであろう喫煙所まで連れてきた。
ここにくると無意識にポケットから煙草を出す習慣があるのだが、今はそれどころじゃない。
「笑い事じゃないですよっ!」
「アハハッ、お前最高だな」
頭にきたんです、と。
しょんぼりする美琴に、道中もう笑いが堪えきれなくて。
ノックアウトです。
「私、クビになるかもしれません」
「そしたら俺が一生面倒みるから」
「助かりま……、えっ!?」
「ククッ」
「からかわないでくださいよ!もうっ」
別にからかってないし。
大笑いする俺にしばらく頬を膨らませていたが、不意に真顔になって覗き込まれドキリとする。
「私、仕事を一番に頑張ってる司さんが大好きですよ」
……反則技ばっか使いやがって。
年下のくせに、いきなり大人びる彼女に心拍数は上昇。
無性に愛しくて柔らかな髪をくしゃりと撫でると、気持ち良さそうに目を細めるもんだから。
溜まらず肩を抱き寄せそっとキスをした。
「二つ、約束して」
「……約束?」
頬を染めた美琴にコツンと額をくっつける。
「専務となるべく二人きりにならないこと。ヤバイと思ったらすぐ逃げること」
「……え?」
「本当に、お願い」
「……はい」
その顔では、よくわかってないな。
一日でも側にいれないって、こんなに辛いもんなのか。
大切にしたいと思う気持ちを、痛いほど感じた。