小さい頃、母に読んでもらった大好きな「人魚姫」の絵本。

母はいつも本を読み終えると必ず口にする言葉があった。

「人魚姫はきっと溺れてしまったのね。」

幼い私はその言葉の意味がわからなかった。

そう人魚姫の物語の中には人魚姫が海で溺れるシーンなんてどの本を開いても描かれていないのだ。

私はそれに対して「何で溺れたの?」などと聞いていた。

しかし、母は必ず「いつか大人になったら分かるわ。」何て言うばかり。


母はその言葉を口にすると、いつも優しい笑顔を私に向けていた。

その、母の笑顔が当時の私にはとても眩しかった。

でも、私はその言葉の意味が分かるのにとても時間がかかる事なんて、まだ分からなく
そしてその時の私はその言葉に特別興味を持つこともなく長いようで短い日々が刻々と過ぎている事に気づきもしたかった。