「ルシード、何故行ってしまうの?!」


あ?! え?!
杏? どした? ルシード?って誰だ??
私は、なにがなんだかわからず、杏の後ろに立ち止まり、杏と男性を交互に見た。


「何故?理由なんてないさ、未来を変えるには、前に進むしかないからさ!」


振り向いた男性は、杏に向かって応えた。


なに?なん?!!
はっ!! この声!!聞き覚えがある!!
んー 誰だっけ? んー…


「フフフ、やっぱりな。変装したってアタシにはわかるよ。
お兄さん、桜木恭輔だよな?」


男性の目の前に立ち、杏は彼を見上げた。


「えぇぇぇーーっ?!」


桜木恭輔って、今年の声優アワードで優勝候補に上がってるあの桜木恭輔?!
恋人にしたいNo.1声優の桜木恭輔?!


「桃…、かぁさん、声デカすぎ!近所迷惑!」


私をジロリと睨んだあと、深呼吸をし、再び目の前の桜木恭輔に言う杏。


「恭輔も、このマンションに住んでるのか?」


「ちょ、杏、呼び捨てにしないのっ」


私の注意にも反応せず、本物の桜木恭輔に臆することなく見つめている杏。


「あぁ、そうだよ。しっかし、まさかあんな一言でバレるとは…。
すごいな君! しかも、あのセリフ、オレが端役の時のだせ?よく覚えてたよな?」


杏の目線に合わせるよう片膝を曲げ、帽子、メガネ、マスクを取り微笑んだ。


うわ、キラキラオーラ…。


「フフフ、子供だと思ってみくびるなよ、恭輔。
王子様キャラスマイルしたって、あたしは落ちないしな。ただ、かぁさんには有効だけどな」


王子様スマイルに見とれる私は、口を開けてトートバッグと保冷バックを床に落としてしまっていた。