引っ越しをして1週間が経ち、ようやく新しいマンションの生活に慣れた。


前のアパートの3倍はあるリビングと、
IHのキッチンでオール電化。


お風呂もボタン押せば、沸いたことを
キレイな声のおねぇさんが教えてくれる。


この上なく快適だ。
マンションへ帰るのも楽しみになってくる。


なんせ、前より会社に近くなったのがいい。


バスで居眠りすることもない…。
あ、いや、3回に1回くらいに減ったか…。


マンションの入口で暗証番号を押して、カードキーを読み込ませる。
自動ドアが開き、杏と共にエントランスへ入る。
自動ドアが閉まり、すぐにこのマンションの住人であろう男性が、
同じようにカードキーを読み込ませ
エントランスへと入ってきた。


エレベーターが到着するのをじっと待つ。


私たちの隣に男性が立ち、スマホを触っていた。


ニット帽にマスク、そして黒淵メガネ。
膝が擦り切れたジーパンに、ジャージの上着。
ホントにうちの会社のエリート社員?
と疑いたくなるような格好だ。


到着音が鳴り、私たちが先に乗り込み、私は開くボタンを押して、彼が乗るのを待つ。


乗り込んだのを確認し、


「何階ですか?」


男性の方を向いて降りる階を尋ねた。


「3階お願いします」


「はい」


3のボタンを押し、
私たちと同じだね、と杏に言おうとしたが、
肝心の杏は、男性のことを頭の先からつま先まで
ガン飛ばすような目で見ていた。


おいおい、杏よ、そんなに見て、この男が怒ってきたらどうすんだ?

そんなことを思いながら、杏をガン見すると、
すぐに3階に到着し、男性は先に降りた。


そのすぐあと、杏が男性を追いかけるように降りたもんだから、私は慌てた。


「ちょ、ちょっと!杏!」


手を伸ばしたけど、全然間に合わず、
すると、突然、杏が男性の背中に向かって声をかけた。