沙世ちゃんは、暫らくの間わたしを睨み付けていた。


そして、わたしの前に立つと

「お父さんに近寄らないで」


と吐き捨てた。

「は…い?」

「お父さんは、まだ出ていったお母さんが好きなの!!
お姉さんになんか、興味ないんだから!!」


わたしは、何も言えず、ただ茫然と、わたしの目の前で毅然とした態度を取る沙世ちゃんを見た。


「沙世!!」

突然、背後で怒声を聞き、振り返った。


「お父さん」

「秋葉、沙世の言うことなんか気にしないで…」


花村先生は、わたしの肩を持ちながら言った。

「…お邪魔しました」


わたしは先生の手を払い

アパートを飛び出した。




惨めで仕方なかった。


所詮わたしはただの仕事仲間。

一度愛した奥さんに勝てるわけがない。



わかってた。


わかってた…はずなのになぁ…。



わたしなんかが、先生を好きでいる資格ないって。




溢れる涙を拭いながら、歩調を緩めたとき

ふいに腕を掴まれた。


「…やっと……追い付いた」