「ただいま…」


暗い面持ちのまま家に入ると

息子の、叶太がリビングで遊んでいた。


「おかえり、お母さん」

「……きょ…ぅ…た…」

わたしは倒れこむように叶太を抱き締めた。


「お母さん?」

「パパに…謝らなきゃね。
『幸せになれ』…って…言われたのに……あなたを理由にして…わたし……」



叶太は理解しきれない様子で
わたしの腕の中で戸惑っていた。




そう。

たとえ子供がいたって


恋をしてもいい。



そう思ってた。




でもわたしは…


先生の前の奥さんには

先生が大切にしている子供たちの本当のお母さんには


勝てない―――。




そう思ったから


叶太を理由に

先生から

自分の恋から、逃げた。




わたしは、叶太を抱き締めて声を上げて泣いた。



やっと落ち着いたとき


見上げた窓越しに見えた秋空は



哀しく、切ない朱色に染まっていた。