「成人式は、どうだった?」

 母の質問のせいで、鈴音の喉が詰まった。
 鈴音は咳込んでから、改まって前を向いた。

「あのさ、お父さん、お母さん」

 息を吸い込んでから、口を開く。

「私、芸能界デビューしたい」  

 父も母も妹も弟も、驚いて言葉が出ていなかった。
 鈴音は、今日起こったことをすべて、話した。
 河原坂零と出会って、俳優の素質がある、といわれたこと。
 それに、芸能界に入れば友達もできるかもしれない、という可能性の事も。

「……駄目なのは、わかってるけどさ」

 鈴音はしょぼんとして、うつむいた。
 しかし、父と母はにっこりと笑った。

「好きにしなさい、鈴音が自分からやりたい! なんて、いう物は全然ないんだから、芸能活動くらい、どうってことないでしょ?」

 母が鈴音にいった。
 鈴音の表情が、ぱっと明るくなった。

「やった! ありがとうお父さんお母さん!」

 鈴音は、「ごちそうさまでした!」と、勢いよく立ち上がって、2階へ駆け上がっていった。
 そして、自分の携帯電話で河原坂に連絡をした。

 プルルルル……プルルルル……ガチャ

『もしもし、芸能事務所Shiningです、ご用件をどうぞ』

 ………………ん? シャイニングって?

 聞き覚えのある名前だ。
 鈴音はつい、出てくれた女性に聞いてしまった。

「あ、あの、Shiningってまさか……あのShiningですか……?」

『はい、“あの”Shiningです』

 鈴音の背中から、血の気が引いていった。
 Shiningとは、あの王手芸能プロダクションで、そこからはたくさんの俳優が売れている。
 
『あの……? すいませんが、お名前を』

「あ、はい。風神鈴音です」

 電話からは、相手の女性が何かをパラパラとめくっている音がした。