「そうですか、ありがとうございます」

 無表情でその男性は答えた。
 さっきから、表情が変わらない。眉さえも、動いていない。

「俺は、河原坂零です」

「……私は、風神鈴音です」

 二人は、「よろしくお願いします」と、同時に頭をさげた。
 
「携帯番号、教えてください。連絡しますんで」

「わかりました」

 …………まて。
 河原坂さんって、本当に芸能事務所の人なのかな。
 私って、なんて疑い深いのだろう。

 鈴音は、自分で自分を嫌いになりそうだった。
 でも、もし芸能事務所の人じゃなかったなら、個人情報が流出してしまう。
 
「安心してください、俺は怪しくありませんから」

「あ、そうですか………」

 ズバッと、いってのけられた。
 零はこういう人なのだろうか。
 鈴音はそんなことを思いながら、携帯を取り出した。
 そして、メールアドレスと携帯番号を交換し、その日は別れた。