「だからって、なんで私を……」

 鈴音は納得がいかず、その男性に質問を繰り返していた。
 男性は「素質がありそうだから」の一点張りだ。
 しかし、鈴音はやっていいのか迷っていた。
 別に、芸能界デビューは構わない。逆に憧れているくらいだ。
 
 だが、鈴音は『友達居ない歴20年』という経歴の持ち主だ。
 芸能界デビューをしても、うまくやっていけるかわからない。
 高校では、小さいがいじめにあっていたような人間だ。
 「ぼっち女」など、いろいろといわれ、高校の3年間。何も楽しめずに終わってしまった、という苦い思い出がある。

 だからこそ、なのか。

「大丈夫ですか」

 男性がきいてきたものだから、「え……あ、はい」と、おかしな答えになってしまった。
 
「で、どうします?」

 どうします? じゃないよ……
 私にとって、これは「生きる」か「死ぬ」か。みたいな選択なんだよ。

 そんなことを心の中で叫びながら、男性の目をみた。
 鈴音はぎゅっと、手を握りしめた。

「芸能界……入ってみます」

 芸能界に入れば、私だからこそできる事があるかもしれない。
 そんな可能性にかけて、鈴音はこの選択にしたのだった。