自宅マンションにつき、桐島課長は傘を閉じる。

さっと桐島課長の横から離れ、先にエントランスへ入った。

エレベーターホールへ早足で向かい、ボタンを押していると、エントランスホールにある集合ポストへいって郵便物をとってきた桐島課長がきてわたしの左隣に立つ。

「傘、入れてくださってありがとうございました。濡れずにすみました」

「これぐらいのことは別に平気だよ。星野くんが嫌がらなければ」

「え」

それはどういうこと、と言おうとしたらエレベーターがやってきて、桐島課長が先に中へ入ると、わたしもエレベーターの中へ続いた。

扉を閉め、上階のボタンを押し、階数を知らせる液晶画面を二人でみていた。

さっきも傘の中という二人だけの空間の中だったけれど、さらに密閉度の増したエレベーターの中で隣にいる桐島課長に緊張した。

「俺が逆の立場だったら、星野くんはどういう気持ちになる?」

「……どういう気持ちって言われても」

どういっていいかわからない。

染谷さんだったらきっとがっつくように自分をアピールしてくるのだろう。

そのエネルギーがわたしにはない。

こういうことがあるだなんて、二階堂さんに相談しておけばよかった。

「わたしなら……」

最上階につくと、桐島課長は開くボタンを押してくれて先に廊下へ進み、桐島課長はわたしの後ろを歩く。

「悪かった。冗談だよ。あんまりいうとセクハラに値するから酔っ払いのおじさんの戯言だったっていうことにしてくれないか」

「おじさんだなんて」

「30近いといろいろと慎重になっていくもんだよ」

わたしは自分の部屋のドアの前に立つと、桐島課長は廊下の真ん中で寂しそうに顔を下に向けてしまった。