それからしばらく無言のまま、少しずつ近づいてくるマンションの明かりをみながら歩いた。

そういえばさっきからの大粒の雨からだいぶ小雨になったのか、ビニール傘にのる雫が細かくなっていた。

桐島課長はそのまま傘を閉じずに歩いている。

さすがに無言はまずいなと口を開きかけたとき、桐島課長から話しかけてきた。

「驚いたよ」

桐島課長から珍しく低く響く声に胸がときめいた。

「どうかしたんですか?」

自分の気持ちをはぐらかすかのように、気丈に振る舞いながら返事をした。

「君ぐらいなら彼氏がいるんじゃないかって思っていたけど」

桐島課長はそういうと、はあ、と大きなため息に似た声を出した。

「ち、違いますって。本当に相談相手なんですって」

桐島課長はふうんと相槌を打って、ところどころ散らばる水たまりをみつけては避けて一緒に歩いてくれた。

「男の友達ってところか。なるほどね」

男の友達だなんて。

二階堂さんは友達でもなんでもないし、ただ個別に指導してもらっているだけのひとなんだから。

それよりも桐島課長も大好きな二階堂重彦のその息子であることを打ち明けたいけれど、そうなると話が余計ややこしくなるから言えない。

「関心しないでくださいよ。本当になんでもないですからっ」

「そんなムキになってる星野くんをみたのは、初めてだよ」

そういって桐島課長はくすっと軽く笑ってくれた。

これは完全に勘違いされている気がするけれど、うまく反論もできないまま自宅マンションに到着した。