繁華街を抜けて駅方面へと足を進めていくと、ぽつりと頭上へしずくが落ちてきた。

下をみると、アスファルトが水玉模様と変化している。

次第に粒が大きくなり、雨が降り出してきた。

急いで走って閉店しシャッターが下りたお店の軒下へ雨宿りをする。

少し止んだら駅近くのコンビニへいって傘を買って帰ろうとしていたところ、

「星野くん」

後ろからビニール傘を手にした桐島課長が声をかけてやってきた。

「そんなところにいたら帰れないよ」

桐島課長の周囲をみても、染谷さんの影かたちはみつからなかった。

「あの、染谷さんは」

「タクシーの運転手さんにまかせた」

そういって傘を閉じてわたしの隣に立つ。

わたしは桐島課長の視線に困り、軒下の雨粒が地面におりてくるのをみつめた。

「誰か、待ってるの?」

「いえ。コンビニへいってから走って帰ろうと思って」

「それならちょうどいい。一緒に帰らないか。傘もあるし。濡れずに済むでしょう」

そういってわたしに顔をむけてやさしく笑いかけてくれた。

わたしと相合傘なんていいのかな、と尻込みしてしまう。

「遠慮してるんだね。帰る方向は一緒なんだから。さ、入って」

と、桐島課長は軒下からビニール傘を広げた。

「でも」

「風邪引かせたくないから。帰ろう。一緒に」

桐島課長のメガネからのぞく真剣なまなざしにいいです、なんていう否定なことはいえなかった。

わたしが傘の中へ入らないと帰れない雰囲気だったのでしぶしぶ桐島課長の横へ少し間を開けて身を寄せた。