「宴会の時間ももうすぐ終わりだ。中へ戻ろう」

桐島課長は腕時計をみて、立ち上がる。

「まだちゃんと話してませんって。あたしは課長のこと」

「幹事さん、待たせちゃ困るから、ね」

と桐島課長は扉を開けて、中へと促した。

「だから、課長ー、あたしはー」

「はいはい、もうわかったから。幹事がいないとみんな帰れないからね」

と諭すようにいうと、もう課長のイジワルーといいながら染谷さんとともに宴会用の部屋へと戻った。

扉を開けてわたしがデッキテラスから中へ入ったとき、桐島課長はやっぱり何かを言いたげで、少しだけ口を開きかけていたけれど、染谷さんがいる手前だったので軽く頷いて自分の座っていたイスに着席した。

お店のひとから宴会時間の終了が伝えられると、わたしから軽く幹事から終わりの挨拶をして、桐島課長へとバトンタッチをした。

「今日は歓迎会を開いて出席してくれてありがとうございました。マニュアル作成も山場になってきたのでこれで英気を養って完成まで力を合わせましょう」

会計を済ませ、店の出入り口から外へ出ようとしたとき、

「えー、送ってくださいよぉー」

と、染谷さんは桐島課長のYシャツの袖をひっぱっていた。

「仕方ないね。送るまでずっという気なんでしょう」

「わーい、ありがとうございます」

黄色い声をあげている横を若い男性社員がうらやましそうにチラ見しているすぐ脇で、

「くだらない」

牧田先輩はため息をもらしながら、さっさと帰っていった。

店の前でタクシーを拾っている桐島課長とそばを離れようとしない染谷さんを見ながらわたしは自宅へと向かった。