「星野くん、あのさ、このあと」

桐島課長が話しかけようとしたとき、扉が開いた。

勝負服ともとれる黒のミニスカートに白のシフォン素材の半袖シャツの女の子がすかさず桐島課長の背中へ回り込んで割って入ってきた。

「二人でなにやってるんですかー」

そういうと、染谷さんはかわいらしく唇をとがらせている。

「あ、そうだ。星野センパイ、彼氏いるんですね」

染谷さんはお酒に酔っているのかいつもよりもかなり甘ったるい言い方だった。

桐島課長は動じることもなく、静かにまた近くにあった白いイスに腰掛けた。

「は? なに、いってるの?」

「休みの日、コーヒーチェーン店の前を通り過ぎたとき、偶然みたんですけど。すっごくかっこいい男の人でしたよねー」

そばに桐島課長がいるっていうのに、どうして今、その話をするんだよ。

「え、あ、あれは」

さすがに二階堂さんの話をするといろいろと弊害がでてしまう。

「秘密にしてたんですか、あんなかっこいい彼氏」

「彼氏だなんて」

「お似合いでしたよー」

きゃぴきゃぴとまくしたてる染谷さんの口ぶりに、ますますこちらが不利になっている。

「ただの相談相手だけだから」

「へー。相談相手にしては親密なカンケーぽかったですけど」

つっかかるようにいってくる染谷さんをなだめた。

「そうみえるだけだって。染谷さん、お酒にのまれてるから」

「だって見るからにかっこよかったですって。見せびらかすように座ってましたよね。ガラス張りの店内から丸見えだったし」

染谷さんはむすっと頰を膨らませている。

ちらりと桐島課長をみると、ふふ、と軽く笑い声が聞こえた。