トイレへ用を済ませ、帰ろうとしたけれど、宴会用の奥に『ご自由にどうぞ』という張り紙がされた扉をみつけた。

気になってその扉を開けると四方に小さな照明が設置されて、白いテーブルとイスがところどころに並べられた小規模のデッキテラスが明るく照らされている。

天気がよければビヤガーデン風に宴会ができるというお店のコンセプトでつくられた場所だった。

商業ビルとビルの合間にある空には分厚い雲に隠れて星はみえない。

風が吹けば多少気持ちが落ち着くかな、と思ったけれどじめっとした空気が肌に張り付いてくる。

帰ろうと思っていたら、ガチャリと扉を開ける音とともに、背の高い男性がこちらへやってきた。

「こんなところがあったんだ。非常階段みたいだね」

のんきに言いながら桐島課長がやってきた。

扉をみても染谷さんが桐島課長の後ろにくっついていなかったみたいだったので少しだけ安心した。

「いいんですか? 主役が抜けて」

「みんな酔っ払って好き勝手なことしてるから。俺がいなくても楽しくやってるよ」

桐島課長はそういうと、近くにあったイスに腰掛けた。

「大丈夫?」

桐島課長は、わたしの顔をじっとみつめていた。

眼鏡越しの桐島課長の目がギラリと光ったように思えた。

「え。あ、はい」

「相当飲んでたみたいだけど」

染谷さんと話をしてたけど、わたしのこと、みていてくれていたなんて。

「これぐらいは平気です」

「それならいいんだけど。二次会の相談してたけど、星野くんはいくの?」

「わたしはこの会で帰ります」

「そっか。わかった」

よいしょ、と桐島課長が掛け声とともに立ち上がり、ゆっくりとわたしへ近づいてきた。