「珍しいな。あのひと、飲みにくるなんて」

飲みかけのビール片手に牧田先輩がぽつりとつぶやいた。

目線の先には桐島課長が染谷さんと楽しく会話しているところだった。

牧田先輩が若干、桐島課長へ向けて目を吊り上げているのが気になった。

「あの、牧田先輩」

「なに?」

なんでもない顔をして牧田先輩はわたしのほうへ顔を向けた。

「あんまり課長のこと、好きじゃないんですか?」

「……どうして?」

わたしの言葉に反応したのか、牧田先輩が目を丸くした。

「そういえば交渉するとき、わたしを桐島課長の間に挟んでいるのは、どうしてですか?」

「課長と話したくないから」

ぶっきらぼうに牧田先輩は言い放つと、目の前にあったサラダを食べ始めていた。

「話したくないというのは?」

「嫌いなの、あのひと」

食べながらそういって牧田先輩はまたビールに口をつける。

「アクション起こしてもまったく動じないの、あのひと」

「……桐島課長のこと、知ってるんですか?」

「知ってるもなにも、同期だから」

「そう……ですか」

「あんなやつに、騙されちゃだめよ。染谷はすでに騙されちゃってるみたいだけど」

桐島課長のなにを牧田先輩は知ってるんだろう。