ひとりになって、ますます桐島課長の言葉が胸に響いてくる。

あんなに話がはずむなんて、桐島課長はやっぱり二階堂重彦のファンだったんだ。

好きなひとと同じ小説について話ができるなんて。

それよりも大切なこと。

キラキラしてるね、っていってくれた。

今まで男のひとにそんなこと言われたこと、なかったのに。

ただ本の話題をしただけなのに、予想外な言葉がますます桐島課長への想いを刺激する。

雨の音を聞きながら非常階段の扉を開けて中へと戻る。

じわっと湿気た空気に体を絡め取られながら、桐島課長の言葉を頭の中で反芻させ、自分の席に戻る。

桐島課長はすでに席についていて、資料をみながら机の上の電話で話をしていた。

わたしが席につくのをみて、染谷さんは原稿を持って行きがてら、髪の毛をゆらしてこちらへやってきた。

「星野センパイ、桐島課長にいっておきましたよ。歓迎会のこと。そうしたら嬉しそうでした」

「そうなんだ」

「あたしがお店の候補しぼっておきますからねー。一緒に選んでくださいよー」

「うん、わかった」

染谷さんが嬉しそうに席に戻ると、牧田先輩がこちらをみていることに気づいた。

さすがに牧田先輩にも報告しなくてはな、と直した原稿と資料を持って牧田先輩の席へと向かった。