「桐島課長」

「ん?」

本からわたしの顔をうつし、こちらを見ている。

まっすぐ見つめられとまどっていると、クシュンとひとつ桐島課長がくしゃみをした。

「濡れていたら風邪をひきます。すぐにお風呂に浸かってゆっくり休んでください」

「そうだな。星野くんのいう通りにするよ」

「……おやすみなさい」

「おやすみ」

と、鍵をあけて、桐島課長は自分の部屋へと戻っていった。

わたしも自分の部屋の中へと入る。

話をしたかったのに、できなかった。

話をするっていってもあの状況の中で本の話をするとか、おかしいか。

急に色目気づいた話をするのも変だし。

結局何事もなかったなんて。期待して損したのかもしれない。

そんないきなり急展開するうまい話なんてないよな。

ただ本を貸しただけだから。

このことも二階堂さんに報告しておかないと。

すぐにメールが届いた。

星野さんの判断は正しいです。
明日も仕事があるんだから、変な状況になったらお互い気まずいだけです。
まだチャンスはあるから、それを狙って共通の話をしてみてください。

と書いてあった。

チャンスか。

まだ始まったばっかりなんだから、慎重にアピールしていかないと。

二階堂さんが後ろについているだけでますますチャレンジしてみたくなってきた。