「桐島課長が書庫にいるって情報つかんだのにー」

と化粧も髪型もばっちりに決めた染谷さんはそういうと、唇をかみしめ、がっかりした様子だった。

「どうして星野センパイがこんなところにいるんですかー」

といわれましても、仕事ですからここにいるんだけどな、と思いつつ、手元にあった資料の本を棚に返し、別の本を取り出していた。

「もしかして星野センパイ、恋の邪魔しようと思ってるんじゃないでしょうね」

「邪魔? 何いってるの」

「まあ、敵がいるほうが燃えますし。必ず落としてみせますからね、桐島課長のこと」

と、力強く言い放つと染谷さんは入ったときよりも大きな音を立ててドアを開けてでていってしまった。

そんなに闘争本能をかきたてる何かがあるのかな、と思いつつも、桐島課長に何を話せばいいんだろうと思い悩んでしまう。

けれど、そんな心配しなくてもいいんだった。

昼休みになり、いつものように非常階段の出入り口を開けると、桐島課長がのんびりと風にあおられながらお茶を飲んでいた。

「何か話したいことでもあった?」

桐島課長は涼やかにわたしに向けて笑う。

その笑顔にカラダが熱くなっていくのを感じる。

「え、あ、あの」

二階堂さん、もうちょっとどういう話をしていいか教えてくださいよ、と思った。

二階堂さん、あ、そういえば。

「本、読みました」

本というフレーズに桐島課長は少年のように目を輝かせていた。