「まあ、過去に一度だけ規約違反になった方がいましたけど」

さらりと言いのけているけれど、規約違反になったらどうなるんだろうと、考えてみる。

あやしい集団に狙われるとか?

やっぱり怖すぎて想像できない。

「あ、あの、規約違反ってどうなってしまうんですか?」

「規約違反ですか。そうですね。かなりのペナルティーになると思いますよ」

「例えば」

「例えばですか、ある種、サポートがなくなって自己嫌悪に苛まれるっていうことでしょうかね」

自己嫌悪ってどういうこと?

守らないととんでもないことになるってことなのか。

「怖がらなくても、安心してくださいよ。特別受講生はそんなことをしないっていう審査をしたわけですから」

二階堂さんは安心させようとしてやさしい言葉でいってくれているけれど、規約違反の部分がひっかかって契約書の文字がうまく追えない。

「規約2。先ほども言いましたが、私からの提案にそって遂行してもらったら必ずレポートを提出してください」

「レポートを遅れたらそれも規約違反とみなされますか?」

「ものすごく遅くなったら考えさせてもらいますが、恋愛は個人差があるので。レポートを提出して確認してから指示を出すので、みなさん早く出される方が多いです」

そりゃそうだよね。

早く知りたいのもあるけれど、早く恋愛対象のひとと結ばれたいっていう気持ちのほうが強いし。

「規約3。これは最大の約束なんですが、私とは決して恋をしてはいけません」

「二階堂さんと、ですか?」

「私からいうのもおかしな話ですけどね。業務に支障が出ますから」

こんな地味な自分が目の前にいるハイスペックな男性と恋におちるなんて考えられない。

塩系男子に愛想を尽かしたから、塩系に付随する二階堂さんは恋愛対象ではないし。