「課長の家はこの駅の近くですか?」

「会社の近くの駅だよ」

「そうなんですね。わたしもそうなんですよ」

ちょっと恥ずかしかったけれど、桐島課長と一緒に同じ駅に向かい、同じ電車に乗る。

ちょうどふたつ、席があいていたのでわたしも桐島課長と一緒に乗り込む。

夕方の時間帯ということもあり、旅行から帰ってきたひとがカバンを持って待っていたり、部活動の試合に出たのか疲れた表情を浮かべた学生たち、あとは買い物帰りだったりスーツ姿のサラリーマンだったりとそれなりに混んでいた。

なんだか不思議な気持ちだ。

電車の揺れで少しだけ桐島課長の右腕がわたしの左腕にくっついてしまうことがあった。

こんなわたしじゃあ、いやだろうな、と思いながら終点までずっと座り直していた。

ちらりと桐島課長に目をやるけれど、気にするそぶりもみせず、古本市で買った本を読んでいた。

ドキドキが抑えられないまま、終点である駅に到着した。

列車に吐き出されるように外へ出る。

さわやかな風が駅のホームに流れ込んでいた。

ホームから駅の出口に差し掛かる。

「星野くんとこうやって本の話ができて楽しかった」

「わたしもです」

「またゆっくり話をしよう」

「は、はい」

こんなことってあるんだろうか。気になる課長とこうやって穏やかに話ができるなんて。

まあただの上司と部下の関係なんだからと考え直したら急に熱が冷めた。