お茶を飲みながら二階堂重彦の作品を熱く語り合った。

二階堂重彦は少女小説から探偵もの、恋愛ものまで多岐にわたる文才の持ち主であること、昔も今も読んでいてもその時代にマッチした話になっており、どの本を読んでも古臭くなかった。

ある時期からぱたっと二階堂重彦の作品が世に出なくなってしまって昔の小説家扱いするひともいるけれど、少なからずわたしも桐島課長も本を読むことで応援できているからもしかしたらまたひょっこりと気まぐれに作品を出してくれるんじゃないかという期待をしていた。

桐島課長もいろんな本を読んできたけれど、二階堂氏の本は温かみのある体温のあるような作品を書くよねと優しい目つきをして話に乗ってきてくれる。

通りに面したガラス張りの窓からはすでに古本市が終わり、片付け作業をはじめているひとたちの姿があった。

目の前のお互いのカップはすでに飲み物が空になっており、お互いのことよりも本のことについて長く語りあってしまっていた。

「そろそろ帰らないといけませんね」

「ああ、そうだな。夕方になったか」

お互いに席を立ち、レジに向かう。

お金を払おうとカバンから財布をとろうとしたところ、桐島課長がいいから、といって二人分の料金を払ってくれた。

「あの、お金……」

「いいよ。星野くんの本、貸してくれたら、それでいいから」

といって、にっこりと桐島課長は微笑んでくれた。

「あ、ありがとうございました。ごちそうさまでした」

一緒に店を出て、古本市の片付けをみながら駅まで歩く。

すでに月星書房のあったスペースは跡形もなく消えていた。