星彦さんは定食のおかずを口をつけず、ずっとわたしの顔をみてニコニコと笑っている。

「僕のこと教えてあげようか。その代わり」

「その代わり?」

わたしの問いに星彦さんは気をよくしたのか、ほくそ笑み、星彦さんは上半身を前のめりにさせる。

わたしに顔を近づけようとしていたので、あわてて椅子を後ろに引いた。

「昼休み、一緒に過ごしても構わない?」

「昼休みって。一緒にご飯食べるってこと?」

「うん」

たいしたことのない条件だった。

それだけで星彦さんの正体がわかるっていうのであれば少し気恥ずかしいけれど、

「……別にいいけど。お昼ごはんだけなら」

「やった。工場棟のひととの付き合いもいいけど、管理棟のひととも付き合うことも大切って大崎さん言ってたから」

星彦さんは無邪気に笑い、右手で拳をつくって胸の前で掲げてすぐにテーブルの下へ手を隠した。

「じゃあ、ひとつだけヒントを教えてあげる」

「ヒント?」

「僕がここに来た理由」

星彦さんはそういうとわたしをじっとまっすぐに見つめてきた。

ここに来た理由って、星彦さんにとっての仕事で会社に来ているんだよね。

まさか、わたしに関係したことで来たってこと?

「頼まれたんだ」

「頼まれたって、誰に。もしかして」

「心当たりあるの?」

「……それは」

さすがに二階堂月彦さんとは関係があるんですか、なんてまだ会ったばかりの人に聞くのもどうかと思って質問を避けた。

「そう。じゃあ、ここまでにしておくよ。昼休みが楽しいと午後の仕事がはかどりそうだよね。さ、ご飯食べよっと」

といって、星彦さんはご飯を食べ始めた。