「奈々実ちゃん、ごめんな。入社前から自分を売り込むっていうのが彼の得意でね」

みかねて大崎さんが口を挟んできた。

「あ、はい……」

わたしは精一杯の返しをしたのだが、それでも二階堂星彦さんの興味は募ったようで、さらに目を輝かせ視線を強く送っている。

「で、星野さん、また来るんですか?」

わたしに問いかけてきたけれど、わたしが何も答えないので、

「めったにこないけど、総務関係でなにかあったときはおつかいで来てくれることもあるけど」

と、大崎さんがフォローを入れた。

「それじゃ、期待して楽しみに待ってますよ、星野さん」

「二階堂、奈々実ちゃん、困ってるだろ。もうそのへんにしとけ。戻って」

「はい。失礼します」

二階堂星彦さんは軽くお辞儀をしてから、ちらりとわたしの顔をまたのぞくと、ニヤリと笑いながら自分の席へと戻っていった。

「あんなに失礼なやつだとは思わなかったよ。奈々実ちゃん、二階堂、紹介してごめんね」

大崎さんは苦笑いしながら謝ってくれた。

「い、いいえ。あの、これ新しいマニュアルです」

大崎さんに持ってきた新しいマニュアルを渡す。

「本来の目的はこれなのに、遊んじゃって申し訳ない。総務の仕事もあるのに。あとはこっちでみさせてもらって判断をするからね。総務のみんなによろしく。今年も本当にお疲れ様」

できたてのマニュアルに目を通しながら大崎さんは納得した表情を浮かべていた。

それよりも気になったのは、隣に座る桐島課長がずっと黙っていたことだった。