午後になり、桐島課長とともに用意してくれた新しいマニュアルを持って総務のある棟から工場棟へと向かう。

搬送用の大きな道を渡って植え込みのある正面入り口から工場棟へと入る。

玄関から入ってすぐのカウンターが目の前に広がり、その奥に多くの机がひしめくように置かれている。

一階の事務所部屋が生産機械設備課だ。

工場関係の受付は全部生産機械設備課が担っていた。

奥にある工場へと続く扉は開け放たれ、せわしなく社員の人たちが工場と部屋を行き来しているので、全員が全員机の上で作業しているわけではなかった。

近くにいた女性社員に新しいマニュアルを持ってきましたと話すと、すぐに席をたち、工場へと向かって走っていった。

しばらくして、その女性社員とともに男性社員が工場から部屋へと戻ってきた。

襟足や耳まわりをきれいに刈り上げ清潔感のある短髪に前髪を横に流している。

眉毛がきりっとしていて、背が高く、エンジのネクタイにクリーム色の作業着の上着を羽織っていた。

右胸のネームプレートには【大崎】の文字が載っている。

大崎さんはこの生産機械設備課の課長なのだが、初めてこの課にいったときにかたくならなくていいから大崎さんと呼んで、代わりに奈々実ちゃんって呼ぶからと宣言して以降、かたくるしくないおつきあいをさせてもらっている。

カウンターのある場所から隣に小さくつくってある応接場所へと移動した。

「奈々実ちゃん、お疲れ様。あれ、一緒にお客さん連れてきたんだ」

「大崎さん、お客さんじゃなくて、ウチの課の課長でして」

わたしと大崎さんとのやりとりを無言で桐島課長はみている。

わたしはなにも話さない課長をみて困っていると、大崎さんはぷっと吹き出した。

「わかっているよ、奈々実ちゃん。よお、総一郎。久しぶりだな。東京本社のとき以来か」

「そうだな。龍也、おまえも元気そうで」

そういうと桐島課長はニコニコと話し始めていた。