桐島課長と牧田先輩の後を追うように、ゆっくりと階段を下りながら二人を見守る。

あまりにも近距離だとつけているようで気分が悪かったので、少し離れつつ二人が総務課の部屋へ入った頃を狙って総務課のドアを開けた。

すると、すでに自分の席に戻っていた染谷さんが駆け寄ってきた。

「星野センパイ、大変です!」

「どうかしたの?」

染谷さんは横にぴったりついて一緒にわたしと染谷さんの机の島へいきながら、わたしの右耳に口を近づけて小声でつぶやいた。

「いましたよ。星野センパイの彼氏」

「へ?」

星野センパイの彼氏って、まだ桐島課長とはいろいろあったけど、何も発展していないのに、どういうことなんだろうと首を傾げていると、さらに染谷さんがたたみかけるように話を続ける。

「みかけましたよ。あのコーヒーショップで星野センパイと一緒にいたイケメン。スーツ着て、この館内を歩いてましたって」

「似てる人じゃないの?」

「その人ですって」

二階堂さんがどうして会社にいるっていうの?

だって二階堂さんは小説家だし、副業で古本屋と恋愛コンシェルジュマスターっていう肩書き持ってるわけだし、ウチの会社にいるわけはない。

他人の空似っていうやつだろう。

「きっと違うってば」

と、わざと音を立てて椅子に腰掛けた。

「まだこの社内にいるかもしれませんよ?」

「きっと似てる人が営業で来てるんだよ。仕事しよ、仕事」

ホントに似てたのに、とぶすっとしながら染谷さんは自分の席へと戻っていった。