昼休みになり、いつものようにお昼ご飯を食べに社員食堂へと向かう。

土曜のキスのことが頭から離れずに、せっかくの鯖の味噌煮定食を残してしまった。

社員食堂へ向かう前に、入り口にある今日のスケジュールをチェックしておいたけれど、桐島課長は午後会議だったり、出張だったりといった予定は入っていなかった。

階段の上でのんびりお茶を飲んでいるんだろうか。

キスの件、やっぱり言わなくちゃ。モヤモヤが募るだけだ。

ドキドキと胸が高鳴るのを必死で押さえながら、非常階段の扉を開ける。

熱い空気が風に乗りドアを開けてこちらに向かってきた。

セミの鳴き声があちらこちらから聞こえてくる。

真っ青な空が広がる。桜の木々は青々とした葉をたくさんつけていた。

梅雨がそろそろあけると天気予報ではいっていた。

お疲れ様という、やんわりとした声で迎えてくれる声が今日はない。

いつも座っている上へと登る階段には桐島課長は座っていなかった。

もしかしてどこかに隠れているんじゃないかと思って下へ向かう階段をのぞいてみたけれど、人影はみえなかった。

わたしだけの空間がただ広がっているだけだった。

どうして桐島課長、来てくれないんだろう。

やっぱり土曜のことがあってわたしに会う顔がないのだろうか。

日差しを避けてひさしの下の欄干に手をやり、ぼんやりと遠くの山々を眺める。

キスはなかったことにしたほうがいいんだろうな。

会社の中だし、やっぱり意識するのはおかしい。

熱気を身体中に感じるようになってきたので、気持ちを切り替えて非常階段から社内へ戻る。

非常階段から総務課へ戻る途中、階段を降りる桐島課長の背中がみえた。

その右横には牧田先輩がいた。