重い扉を押すと、そこには人影があった。
それが広瀬だということは何となくわかった。
どうやら広瀬は、俺がいることに気づいていないようだった。
近づいてみると、広瀬のか弱い声が耳に届いてきて、俺はその場で止まってしまった。
「おばあちゃん、私、本当に優しいかな?私はね、自分の心が醜くてイヤだよ。
お姉ちゃんが失恋したときね、本当はいい気味だって思ったの。ひどいでしょ?
ねぇ、おばあちゃん。もう生きる気力がないの。どうすればいい?そっちにいってもいいかな?」
空を見上げそう呟くと、広瀬はフェンスに手を掛けて、一筋涙を流した。