~放課後その2~
「ねえ、りっちゃんって最近杏に冷たくない?」

学校の帰り道に気になることをさっそく聞いてみた。

「またその話題か、そんなことはないと言ったはずだぞ?」

かなりうざいぞ、というオーラを放ち言ってくる。

「ぬ~、確かに昨日のお昼のときにも聞いたけど、今回は違うの!」

りっちゃんは、はぁ?どんな感じで違うんのよ、といった感じ。

「えっとね、今日の朝にね、杏と話したの。
でね、杏もなんか最近りっちゃんは冷たいとか、杏が何かしたのかとか心配してるの。
ねえ、本当に何かあったりしなかったの?」

りっちゃんは我が強く、わがままだけど、本当はすごく優しい。

昔から自称紳士と名乗るほど私以外の女の子には優しかったんだけど最近はなんか素っ気無い。

クラスの女の子にも何か素っ気無い。

私だって何かあったのかもと心配だよ・・・

でもりっちゃんの返答は、

「別に何もねえし、俺はいつもどおりだよ。お前や杏の気のせいじゃないのか?」

という素っ気無いものだった。

「気のせいなんてこと・・」

ない、と言おうとしたけどその時りっちゃんは見るからにむっとした表情で、

「たとえ何かあってもお前には関係ないことだ、そうだろ?」

強い口調でそう言った。

言い方は疑問形だけど口調は断定形。

「お前には関係ない。杏は俺の彼女だから杏には関係ないわけじゃないかもしれないけどお前は“ただの幼馴染”だろ?ただ家が近いだけ。ただ付き合いが長いだけ。俺が望んだわけじゃない。だからもし俺に何かあったとしてもお前には関係ない、違うか?」

「・・・」

りっちゃんには不機嫌になると出る決まり文句がある。

それがお前には関係ないという言葉。

「・・・」

今日のりっちゃんはいつも以上に不機嫌だった。

もう不機嫌というレベルじゃない。

明らかに怒ってる。

「・・・」

私はうつむいてしまった。

りっちゃんは怒ってる。

そして怖かった。

だから何も言えない。

言い返せない。

いつものうざいという言葉にはまだまだ反論する余地もあるのに・・・

「・・・」

確かにりっちゃんの言うとおり。

うざいとか言うのはいつものことだけど、こんなにはっきりとお前は関係ないと言われるのは意外だった。

よほど怒ってたのかもしれない・・・

私はりっちゃんに何かあったら相談に乗りたかっただけなのに・・・


・・
・・・

「・・・ごめんね」

しばしの沈黙の後、私は小さくそう言うのが精一杯だった。

「・・・そうだよね、私は関係ないよね」

そうだよね、りっちゃんは望んだわけじゃないんだよね。

「詮索してごめんね」

それだけ言って私は走って帰った。

りっちゃんが怖かったから・・・

それに泣きそうだったから。

“お前には関係ない”なんて言われたら悲しいじゃん!

りっちゃんとはずっと幼馴染だけどこれはりっちゃんが望んだことじゃない。

だからお前には関係ないと言われれば言い返せない。

家が近いだけ。

親同士が顔見知りだっただけ。

そう言われてしまえばそれで終わり。


昔のことを思い出す。

りっちゃんのお父さんが遠くへ行ってしまったことに気づいた日のこと。

過去にりっちゃんが受けた辛さや悲しみというものがわからない。

当事者であるりっちゃん本人にしかわからないんだと思う。

だから私にはその辛さがわからない。

だから・・・

関係ないという言葉が今でも頭に残ってる。

悲しくなった。

私、泣いているかもしれない。

ぅぅん、泣いてるかもじゃない。

私、きっと泣いてる。

だって空を見上げても空の夕焼けがぼやけて見えるから。

今日の夕焼けは・・・綺麗なのかな?

・・・夕焼けがぼやけててよくわからない。

綺麗だったらもったいないな。

でもでも、もったいなくても涙が止まらない。


ごめんね、りっちゃん。