~side 柳也~
夕食の時間。

俺は母さんと2人で夕飯を食べている。

「なぁ俺、親父に話がしたんだ」

親父は別の場所に住んでいる。

転校の理由は親父が仕事が軌道に乗ったから、寄りを戻してこっちで暮らさないかという相談を持ちかけてきたのが原因だった。

「あらあら、やっとお父さんと一緒に暮らすことを認めてくれるのね。お父さんも柳也のこと好きだったからきっと喜ぶわ」

「違う、俺は親父を認めてなんかいない。ただ、話がしたいだけだ」

「あらあらまぁまぁ、また照れちゃって。そうよねぇ~、家族ってやっぱりお父さんがいて、お母さんがいて、
それに子どもがいて初めて家族って呼べるものになるんだものね~」

親父が寄りを戻そうと言った後から、母さんはいつもこういった感じだ。

具体的に言えば話がかみ合わない。

俺がどんだけ親父のことを悪く言っても、どんだけ親父に対する不満を言っても。

「あらあら柳也ったら天邪鬼さんねぇ。」

「うふふ、柳也も本当は嬉しいくせに。」

「嬉しいときは嬉しいって言わなきゃ幸せ逃しちゃうぞ?」
と言われる。

正直に言えば狂ってる。

狂わしたのは親父だ。

だから俺は親父が憎い。

親父と別れた後の母さんはとくに酷かった。

「私、何がいけなかったの?」

母さんは夜に1人で泣くことが続いた。

「私は、お父さんには不釣合いだったのかな?だってお父さんは格好良くて、仕事も出来て、優しくて・・・
でも、私にはなんの長所もない・・・、だから愛想尽かされちゃったのかな?」

誰も居ない台所に向かってつぶやくこともあった。

「ねぇ、柳也は私のもとから離れたりしないよね?私が不出来なお母さんだったとしても柳也は私から離れて行ったりは・・・しないよね?」

その目は最初何かを恐れていた。

そしていつしかその瞳は何かを恐れることすらなくなった。

なんてことはない。

何を見ているのかわからない、遠くを見続けているそんな目に変わったんだ。

母さんと一緒に食事をすることが辛かった。

何も言わない日もあれば、
「私には魅力がないのかもね」
と自嘲する時もあった。

そして酷いときには親父の分も作って、誰もいない椅子に向かって話続けていたことだって、片手じゃ足りないほどにあった。

怖かった。

逃げ出したかった。

母さんは怯える俺を見てもにっこり笑って、
「どうしたの?」
って聞いてくる。

なんて答えれば良いかなんてわからない。

狂ってるって言えば良いのか?

親父はもうここにはいないんだって言えば良いのか?

そんなことは腐るほど言ってきた。

だけどその度に母さんは、
「うふふ、柳也も冗談が好きね。お父さんはここにいるじゃない?お父さんも柳也は冗談言うようになったのか、
冗談なんて言わないやつだったのに、これは成長したってことかな、はっはっはって笑ってるよ?」

そんな狂った家に楽しいと思えることなんてあるはずもなく、俺は家に帰るのが嫌だった。

だから俺は夜遅くまで外で遊び回った。

夜になり公園で遊ぶやつらが帰った後も、俺は1人で公園に残った。

家には帰りたくない。

そういえば梨乃がよく、
「夜遅くまでお外にいると不良になっちゃうよ?」
て言ってたっけ?

そう言ってある日俺を無理やりに家に連れて帰ったときに感づかれちまったんだっけ。

あいつも変に勘が良いから俺が話しちまったんだっけ。

そしたらあいつ大泣きしてたんだったな。

まったく泣きたいのは俺の方だってーの。

俺は、親父が憎い。

少なくても、親父が一緒だった時が幸せだったと思えた。

何もない、なんの変哲もない家族であることが、今思えばこれほど幸せだったなんて。

だからこの当たり前の時間を壊した親父が憎い。

母さんをこんな風にしてしまった親父が憎い。

今さら寄りを戻そうなんて俺は認めない。