須藤君の部屋はシンッと静まり返る。
言ってやったぞ、怖いけど言ってやった!
でも、殺られるかもしれない…。
静寂を打ち破ったのは、赤松千尋の舌打ちだった。
チッと音がしたと思えば彼は拳を上げ、私に向かって振り下ろしていた。
あ、これはダメだ…殴られる。
冷静にそう分析した私は歯を食いしばり、目を瞑った。
しかしその瞬間温もりに包まれた。
目を開けてみれば私の目の前には、須藤君の胸板が映る。
「さすがに千尋でもやっていい事と悪い事がある。」
…庇って、くれた…?
須藤君は赤松千尋に向けていた顔をこちらに向け、大丈夫?、と聞いてくる。
私は驚きで声が出ず、必死に頷く。
それを見て須藤君は安心した表情になって、良かった、と呟く。
「ごめん美沙子、今日は帰ってくれる?」
そう続けた須藤君は辛そうな瞳で私を真っ直ぐに見て言う。
そんな瞳で言われたら断れない。
私は言葉を発さずゆっくりと頷いた後、自分の荷物を持って須藤君の部屋を後にした。
せっかく、会えたのに…。
私は少し涙目になりながら家に帰った。
夏休み、この日が最初で最後、須藤君と会えた日だったー。