追い詰められた私の頭に浮かんできたのは、彼で。

何で彼を思い浮かべたのかは分からない。

でも今、無性に彼に会いたい。

彼の少し低めの透き通った声が聞きたい。

彼が私に向けたあの優しい瞳がもう1度見たい。

泣きそうな私に男は嬉しそうに私の肌に触れようとした、その時。



---バンッ



勢いよく倉庫の扉が開けられる。

何で…こんなドラマみたいな事あるわけないのに…

私の視線の先には倉庫の入り口に立っている、銀髪黒マスクの彼の姿。

私の上に跨っていた男は舌打ちをし、何だお前、と啖呵を切った。








「失せろ。」







いつも聞く声より何倍も低いドスの効いた声。

唯一見えている彼の瞳は、いつもより鋭い。

怒ってる…の?

彼はこちらに近づいてき、私の上に跨っていた男の胸倉を掴む。








「誰の女に触ってんだよ。」







そう言って男を殴った彼の表情は怖い。

倒れた男の上に跨り何度も何度も殴り続ける。