何だろう…別に一条に触られても嫌だとか思わないのは…
「じゃ、教室でいい?送るから。」
「…うん。」
止めていた足を2人一緒に動かす。
あたしだけを想ってくれる人っていうのは、一条みたいな人の事を言うんだろうか。
いや違う、きっとこいつは皆の事を見ている。
広田真純や須藤や暴力男…美沙子や雨弥の事も優しく見守っているんだ。
そう母親みたいな存在。
だからあたしが第2校舎に避難してた理由も分かったんだ。
何も会話をせず隣を歩きながらそう思っていると後ろから声がする。
「奏羅ぁー!」
「え…?雨弥?」
浴衣姿の雨弥は小走りでこちらに向かってくる。
いや結構大きな声で名前呼んだけど、今奏羅はあんただからね…
まぁ周りには一条しか居ないからいいけど…
「雨弥どうしたの?」
「やっと居たぁ…て、あれ?一条君も一緒だったんだ。」
「さ、さっきたまたま会っただけ!」
「…そうなの?」
「うん偶然ね。で、間宮さん急いでるみたいだけど、どうしたの?」
咄嗟に口から出た嘘にちゃんと合わせてくれた上に助け舟まで出してくれる一条。
その言葉を聞いて雨弥はハッとして、大変なの!奏羅も来て!と必死な顔の雨弥。
あたしは何が何か分からない状況だが、分かった、と頷いた。
「間宮さんが一緒なら、僕はいらないね。」
「うん、用済み。」
「…ふっ、言い方ヒドい。ま、喫茶店頑張ってね。じゃ。」
そう言って元の道を引き返して行く一条。
その後ろ姿を見て、あたしは大きな声で名前を呼んで呼び止める。
「あんたって母親だよね。」
「…え?それってどう言う」
「それだけ。じゃぁね。」
そう言ってあたしは雨弥の手を引っ張って教室に向かう。
…最後のあいつの顔…意味が分からないと言ったような間抜けな顔…面白かった。
あたしはあいつのあの顔を思い出しては、ふふっと笑った。
その様子を雨弥は不思議そうに見ていたが、何も言っては来なかった。
そしてそんな雨弥と自分の教室に向かったのだった--。