だから、俺にしとけよ。




「次移動だから遅れちゃう」



私は授業の準備をして席を立つ。

そして入谷くんを思いっきり睨む。




「さようなら!」


「いや、俺も移動で同じだからね?」


「歩美ちゃん、行くよ!」


「はいはい」




歩美ちゃんと一緒に教室を出て、次の授業を受けるために廊下を歩く。


と、急に我慢ができなくなったかのように吹き出す声が聞こえて、横を見る。



不思議に思い首を傾げて、歩美ちゃんを見る。




「ごめんごめん、おもしろくってつい」



何がおもしろいのか分からず、歩美ちゃんをじっと見つめる。




「伊都があんなに言い返したりするなんてね。
心開いてるのかなって」








確かに私はあまり言い返すタイプではない。


どちらかと言うと、ハッキリ言えないウジウジしたタイプだ。



でも、京ちゃんを悪く言われて黙っていられるわけがない。




「聞いてくれる?」



私は歩美ちゃんに昨日の出来事から今日言われたことまで全て話す。

思い出すとまた怒りが込み上げてくる。




「ちょっあたしの伊都にキスしたぁ!?
純粋が売りの子に何てことすんの!!」


「声!大きいよ!」


「あ、ごめん。
でも伊都が男の魔の手に汚されてしまった……」



何か話がかみ合ってない気もするけど、歩美ちゃんも怒ってくれてる。


やっぱり腹立つよね!








「伊都はあたしのなのに」


「歩美ちゃぁああん!」



歩美ちゃんに抱きつく。

私の頭をよしよしと優しく撫でてくれる。



ほんと、私のお姉ちゃん的存在で大好き。



それからは入谷くんが近づいてくるたびに、歩美ちゃんが牽制してくれていたから大丈夫だった。




でも、ずっとそうゆうわけにもいかなくて……。




「伊都ちゃん!委員会行こうっ」


「歩美ちゃん……」


「ごめん、部活。頑張れ!」



歩美ちゃんはそう言うと、入谷くんにあっかんべーをしてから私に手を振って教室を出て行った。








私と入谷くんがその場に残される。


クラスはまだざわざわしているけど、やけにここの空間だけ静かだ。




ここは、気にしてないフリ!



私は筆記用具だけを持って、教室を出る。

入谷くんはその隣にすかさず並ぶ。


そして一緒に視聴覚室に向かう。



「いやぁ今井さんに嫌われちゃったみたいだなぁ。
伊都ちゃん何か言った?」


「入谷くんがした事実を話しただけ」


「え、俺とのこと話してくれたんだ。
伊都ちゃんが俺の話題出してくれるとか嬉しいじゃん」



何でそうなるの。

もう、スルーだ。


ここは入谷くんのペースに合わせないことが一番だ。








入谷くんはずっと何かをしゃべってたけど、私はちくわ耳のように聞き流していた。

そのまま先に視聴覚室に入る。


そこにはもう他のクラスの実行委員は座って全員がそろうのを待っていた。



「1組よね?これでそろった。
席は自由だから適当に座って」


「はい」



返事をして入ってすぐのところに座る。

と、気づいた。



私の前に座っている人に。

その人も振り返り私を見る。



「伊都も実行委員なんだ」


「うん、気がついたらなってた。
京ちゃんは?」


「俺も、寝てる間に決められてた」



京ちゃんらしいや。

そう思ってクスクス笑う。


私の前に座っていたのは京ちゃんだった。


実行委員なんて嫌だって思ってたけど、京ちゃんも一緒ならして良かった。




「伊都ちゃん、あっちに座ろ」


「え?ここでいいじゃん」


「早く」



私に有無を言わせず、座ったのに無理やり立たせて引っ張られて前の方に移動した。



強引すぎる!








せっかく京ちゃんと近かったのに、遠くなっちゃったじゃん。

しかも前の方だから、京ちゃんを見れないし。


ムスッとして入谷くんを見ると、私の視線に気づいたのかこちらを向く。



「割り込むって言ったじゃん」


「最低」


「では、これから集団合宿についての説明をします。
今から言うことを明日のHRで実行委員に説明してもらうので、しっかり聞いといてください」



それから先生がプリントを配って、説明を始めた。


私は入谷くんに対してのイライラが復活して、頭に入ってこなかった。







入谷くんのバカ。

バーカバーカ。



「……バーカ」


「相崎さん、ちゃんと聞いてますか?」


「へっ?」


「先生に向かって“バカ”とは何ですか?
あなたには集団合宿で、しっかりと態度を改めてもらわないといけませんね」


「いや、違いま……」


「やらなきゃいけないことはたくさんあるんです。
相崎さんには特にいっぱい働いてもらいますから」


「……はい」



何も反論させてもらえなかったから、諦めて返事をする。


最悪だ……。



入谷くんのせいだ!

そう思い隣に座る彼を見る。


入谷くんも私を見ていて、目が合うと口を開いた。



“バーカ”



その口は確かにそう動いた。


声には出していなかったけど、ちゃんと伝わった。








その後のニヤッとした笑みで、確信に変わる。


入谷くんなんて嫌いだ!




それから、実行委員での役割分担をして終わった。


集団合宿はクラスでの仲を深めたり、高校生としての生活を過ごす基準を学ぶのがテーマらしく、オリエンテーションのようなもの。


だから楽しいイベントもある、はず?



登山や肝試しがあるって。

楽しい……よね。




「相崎さんは合宿のしおりの表紙をよろしくね。
あと、当日司会も」









先生に目をつけられたらしく、早速仕事を押し付けられてしまった。


司会はみんなの前に立ってしなきゃいけなくて、本当は1人1回するかどうかなのに、私が全てしないといけなくなった。


他の実行委員は特別な仕事はほとんどなく、基本クラスを委員長と一緒にまとめるくらい。



「はい」



テンションだだ下がりだけど、返事をする。

これ以上目を付けられて仕事増やされたくないからね。




「また何かあれば集まってもらうことあるかもしれません。
それでは以上で終わります」



先生のその言葉で、席を立ち教室を颯爽と出て行く人達。

私も早く帰ろうっと。


もう疲れたし。




だから、俺にしとけよ。

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