「京ちゃんおはよっ!」



玄関から出てきた京ちゃんこと持田京介(もちだ きょうすけ)に、すぐに笑顔で挨拶をする。


京ちゃんとは家が隣の幼なじみで、生まれた時からの付き合いなんだ。




「ネクタイおかしい」


「えっ?」




京ちゃんは私の目の前まで来て、手を伸ばしてネクタイを結び直してくれる。


自然と体が近くなりドキドキとうるさくなる心臓。




それを目をつぶって抑える。





「できた。
ちゃんと結べるようにしときなよ」



キュッと締めてから、優しく微笑む。


あぁ、幸せだな。



京ちゃんの笑顔に私の頬も緩む。




そして2人並んで歩き出した。










「ネクタイって本当に難しいね」



隣を歩く京ちゃんを見上げながら話しかける。



私は相崎伊都(あいさき いと)。


一週間前に高校1年生になったばかり。




まだブレザーを着ている自分に少し違和感。




中学のころはセーラー服だったから。





そして念願のブレザーはネクタイを結ばなくてはいけないんだ。


制服自体はかわいいからお気に入りなんだけど。






「勉強より簡単だって。
それでよく高校受かったね」


「京ちゃんが勉強教えてくれたおかげだよ」




家から一番近い高校。



制服はかわいくて有名だし校舎は綺麗だから、志望者がたくさんいて必然的にレベルが高くなっている。










「部活は決めたの?」


「帰宅部」


「えーそれ、部活って言うの?」





他愛もない話をしながら京ちゃんと学校までの道を歩く。



学校が近づいてくると、同じ制服を着た生徒が増えてくる。




京ちゃんは女子生徒から熱い視線を集めている。




そりゃそうだ。


京ちゃんは本当にかっこいいんだから。



身長は176と男子の中では平均より少し高いかなって感じだけど、顔は整ってるし頭は良いしクールなところもまた魅力的なんだ。

非の打ち所がない完璧な男の子。


そんな京ちゃんと幼なじみな私はすごくラッキーだと思う。


幼なじみじゃなかったら、きっと一生話すことはなかった。


それくらい私たちは正反対。



「クラス緊張する……」


「もう一週間経っただろ」


「でもまだ慣れないよ」










私は人見知りな方だから、自分からはなかなか話せないんだ。


6クラスある中で、私は1組、京ちゃんは6組と端と端になってしまった。





京ちゃんのいない教室に行きたくないよ……。






「伊都なら大丈夫。
頑張れ」


「……うん!」




京ちゃんに大丈夫って言われたら、すごく安心する。

本当に大丈夫な気がするなんて、私は単純かな。



私が大きく頷くと、大きな温かい手で頭を撫でてくれた。




そのおかげで何でも頑張れるパワーがどこからか湧いてくる。





「じゃあな」


「またね」




小さく手を振って、お互いの教室に行く。


高校でもこうやって京ちゃんと登校できるなんて幸せすぎる……。










幸せに浸りながら教室に入る。


席は出席番号順で廊下側の1番前。




相崎だからいつも出席番号は1番で、今まで2番でさえなったことはない。



よく当てられるから、1番って何かと不便なんだよね。




薄いピンクのリュックを机の横にかけてから、椅子に座る。


と、すぐに横のドアが開いてクラスメイトが入ってくる。





「あ、伊都おはよ」


「歩美ちゃん!おはようっ」





私を見るなり、挨拶をしてくれたのは今井歩美(いまい あゆみ)ちゃん。



歩美ちゃんは中学3年で同じクラスになったのをきっかけに、今では1番仲良しの友達になった。




京ちゃんとクラスが離れても、歩美ちゃんと同じクラスになれたから本当に良かった。



歩美ちゃんがいなきゃ、私はもうどうなってたことか。











歩美ちゃんは茶髪のボブが特徴で、顔はすごく整っている美人さん。


サバサバした性格で、男女問わず人気なんだ。




そんな歩美ちゃんが私と仲良くしてくれているなんて、ほんと夢みたい。






「えへへ~」


「いきなりどうしたの」


「歩美ちゃんがいてくれて良かったなぁって思って」


「伊都ってほんとかわいすぎるわ。
変な男がつかないようにしないと」


「どうゆうこと?」


「しっかりした人じゃないと認めないってこと」



聞き返しても意味はイマイチ分からなかった。



そうこうしているうちに、授業が始まるみたいで会話は中断した。





自己紹介でクラスメイトの顔と名前はだいたいは覚えた。


1回でもいいから全員とお話してみたいな。