「白雪姫!」


翠くんが私の名前を呼ぶ。


「す、い、くん」


不安そうにゆがめた顔で私を見ている。


襲われた症状。


ひどい、めまい。


視界が回る。


思考回路は機能を停止した。


「す、い、くん」


ただ、好きなひとの名前だけを呼び続けた。


「白雪姫!」


焦ったような翠くんの大きな声が最後に聞こえた。



___


『なあ、あんたお姫様なんだろ?

あんたに許嫁っているのか?』


小人の家にやってきたその日、小人のみんなが私に聞いた。


『許嫁、ねえ』


そういう立場の人が、私にはいる。


隣の国の王子さま。


本もよく読んでいて、武術も強い。


かっこよくて、優しくて、何でもできる人。


そんな人が貴族や王族の世界で有名にならないわけもなく。


『あの方と将来結婚できるなんて、幸せ者ね』


貴族の人達、王族の人達。


みんなにそう言われてきた。


『白雪姫』


王子様は私のことをなぜか気に入ってくれているようで、いつも優しい声で呼んでくれた。


好きじゃなかった、って言ったら嘘になる。


名前を呼んでもらえた度、嬉しくて胸が暖かくなるのを感じていたから。