「ねぇ、哲。大切なものが増えていくって当たり前の様ですごく尊いものなんだよ」


律は自分のお腹をさすりながら優しくそう呟いた。


大切なものか…


由香里以上に好きになれるヤツなんていない。


だから、俺はこれから先も本気で人を好きになることなんてない。


「ご馳走さま。また来るよ」


確かな幸せを手にしている律が眩しくて居た堪れなくて、まだ律が何か言いたそうだったけど俺は足早に喫茶店をあとにした。




駅前の繁華街を歩いていると携帯が鳴り画面には「依子さん」と表示されていた。


依子さんは半年前に関係を持った年上の女性。


今まで関係を持った女の中で一番ドライな関係で年が6つ上、吸っているタバコの銘柄、下の名前。


たったこれしか知らない。