同じサックスでも、音域が違うから、練習は一緒にできなかった。
その1ヶ月後、顧問の先生に呼ばれた。
「どうしたんですか?」
私が訊くと、先生は困ったような顔をして、
「あのね、3年生の子が、受験勉強でしばらく部活に来ないから、テナーサックスを演奏して欲しいの。バリトンサックスはひとつしかないし、先輩と交代しながら練習しても、上手になれないでしょう?バリトンサックスをもうひとつ買うまでだから。」
と言った。
私は、正直に言って嫌だった。
1ヶ月前は、柊花と一緒にやりたいって思ってたけど、バリトンサックスが上達してきた今は、他のことなんてやりたくなかった。
でも、顧問の先生は無理矢理、私にテナーサックスを演奏させた。
柊花と一緒に練習できるのは嬉しかった。
でも、途中からやり始めた私と、天才肌で何でもできる柊花とは、あまりにも差がありすぎて、楽しくなかった。
そして、体育祭の日に、吹奏楽部で校歌や国歌の生演奏をすることが決まった。
私は、必死で練習した。
柊花に追いつきたくて。
初めは嫌だったけど、上手くなりたくて、人一倍努力した。
体育祭で演奏する曲も完璧だった。
でも、本番当日。
3年生の先輩が、私が使っていたテナーサックスを持っていた。
勉強がひと段落したから、演奏に参加するんだって。
悔しかった。
不覚にも、我慢できずに泣いてしまった。
どうして?
あんなに練習したのに。
先生が言ったから、テナーサックスをやってあげてるのに。
何で?
どうして、私ができなくて、同い年の柊花が、演奏させてもらえるの?
そんな思いが溢れてきて、涙が止まらなかった。
「舞香、大丈夫?仕方ないよ、もともと、あのテナーサックス、先輩が使ってたんだもん。」
そう、柊花が言った。
なに、それ?
自分が演奏できるから、そんなひどいこと私に言えるんだ。
今まで、考えないようにしていた思いが、溢れ出した。
「仕方ない?柊花が私の立場になっても本当にそう言えるの!?……柊花が、柊花がいなきゃ、私は演奏できたのに!!」
こんなの最低だ。
頭ではそう分かっているのに、私の口は止まらなかった。
「何で、ついてきただけの柊花が演奏できて、私ができないの!?そんなの、おかしい!…柊花なんか大嫌い!!」
私はそう言って、音楽室をあとにした。
柊花の目に涙が溜まっていたことに、気づかないふりをして。
それから私は、部活に参加していない。
柊花とも会っていない。
一緒に帰ることもやめたし、すれ違っても無視するようになった。
私が悪い。
そんなことわかってる。
でも、謝りたくなかった。
私のちっぽけなプライドが、それを許さなかった。
でも、ある日。
「……舞香。ちょっといい?」
「…うん。」
柊花が話しかけてきた。
「…なに?」
「この間はごめん、無神経なこと言って。」
「え…?」