次の日、耕二は彼女のルミと一緒にCDショップに来ていた。

ルミは耕二と同じ大学の同級生で、付き合って1年は過ぎた。

「そういえば荒井くん、落語に興味持ったんだって?」

荒井とは亮介のことだ。
そもそも元は、ルミは亮介と仲が良くて、耕二は亮介にルミを紹介してもらったのだ。

「ああ、らしいね。アイツ、ちょっとおかしいから」

耕二はルミの小さな笑い声を聞きながら、新譜のCDを手に取った。

「あ、それ知ってるー。良い歌なんだよー」
「へえー」

耕二は表面的に笑った。

(どこがどういう風に良いのか、説明できないくせに中途半端に言うんじゃねーよ)

耕二は遥と出会ってから、中途半端なことが嫌いになった。

遥はただの主婦としても、耕二の二倍の人生を歩んでいるのだから、20そこらの人生論とは訳が違う。
更に、遥もまた、曲がったことや中途半端なことが嫌いだった。

だから、遥は意味もなく連呼する『キモい』や、その気もないのに言う『死ね』という言葉が大嫌いだった。