少しビターなコーヒーの香りが、耕二の素肌を擽った。
耕二はゆっくり目を開き、体を起こした。
時計の針は11を指していた。

白く透き通った素肌には、無数の赤い痕がついている。

「良い香りだね」

耕二はベッドの横にある小さな机の上に置いてあるシャツをはおりながらコーヒーの香りの方へ、足を運ばせた。

「そう? でも、今時の子は、やっぱりお酒なのかしらね」


白いソファーに浅く腰掛け、コーヒーを飲んでいる遥がふっ、と笑った。

「そんなことないよ。朝っぱらから酒を飲む奴、今時・・・・・」

ふと、耕二の頭に友人の亮介の顔が浮かんだ。

亮介は変わった奴だった。
つい先日まで、マドンナに惚れて洋楽を聴いていたと思えば、突然落語にはまりだしたのだ。

更に突然耕二の家に遊びにきて、特になにかするわけでもなく、飯を食い、昼寝をして、そして帰って行く。


「どうしたの? 何考えてるのよ」

気がつくと、疑いの眼差しを向けている遥が、耕二の顔のぎりぎりまで接近していた。

「何って?」
「笑ってたわよ。にやぁ〜って。いやらしいこと考えてたんでしょっ」

遥はこういう時、決まって瞳を輝かせる。

「22歳の若者が考えるのは、エロいことだけじゃありません」

耕二は遥から離れ、先ほどまで遥が座っていた場所に腰掛けた。

「飲んで良い?」

遥の飲みかけのコーヒーを小さく指差した。

「いいわよ。ねえ、今日は夕方頃に帰る?」

遥は台所で昼食の準備をした。
冷蔵庫から野菜を取り出す。

「旦那さん、帰ってこないの?」
「あの人はサラリーマンだもん。きっと夜に帰ってくるわよ。・・・酔っ払ってね」

遥はふふっと笑った。
耕二はなんとなく複雑だった。